日本初、バイクで旅をしながら地域や文 化 に 触 れ る「 カ ル チ ャ ー ツ ー リ ン グ 」
日時:2023年4月22日〜 23日 開催地:遠州地区(掛川周辺)
text / Ryo Mochizuki photo/©️風と茶畑とバイク、Keigo Tsunamoto
カルチャーツーリズムという言葉をご存知だろうか? その地域の文化や生活様式などの知的欲求を満たすことを目的した観光である。バイクは移動手段として様々な用途に使用されるがカルチャーツーリングと目的とした旅をするのも悪くない。今回はお茶文化をテーマとした「風と茶畑とバイク」の真相を知るためスポットを当てた。
バイクに乗りながら文化や産業に触れる
東西に長く、通り過ぎる県。静岡の方には申し訳ないが、これが筆者が抱いていた静岡県のイメージだった。しかし昨年から始まった「風と茶畑とバイク」というイベントに参加したことでイメージが大きく変わった。「風と茶畑とバイク」は遠州地区(静岡県西部)を巡りながら、お茶産業とバイクの知られざる関係を見つけていく「カルチャーツーリング」だ。遠州地区は古くから機械産業が盛んで日本の4大バイクメーカーのうち3社の創業地である。1960年代には大小多くのバイクメーカーがしのぎを削ったが、やがて淘汰され3社が残った。ソケットレンチで有名な工具メーカーKo-kenも同地区の創業だ。しかし、最も有名な産業はお茶だろう。静岡のお茶の生産量は日本一である。ツーリングが開催された4月は新芽の季節。山がちで起伏に富んだ地形を駆け抜けると、目の前に茶畑の深く鮮やかな緑が広がる。身体中が新茶の香りで満たされる。茶農家を巡り、茶のもてなしを受け、郷土料理を味わう。今までに無い斬新なイベントであり、お茶の香りを感じるツーリングだ。
お茶とバイクの意外な関係性目指すのは変化と共存
お茶は重要な日本文化の一つだ。日本人の生活に根ざし、長く愛されてきた。明治以降、西洋諸国に追いつくため栽培と輸出に力を入れ、製造設備の大規模化を進めてきた。しかし、現在では美しい茶畑を守ってきた茶農家のうちなんと8割以上が後継者不足に直面しているのが現状だ。その原因の一つはペットボトルの普及である。自動販売機やコンビニで手軽に入手できるペットボトルは業界を活性化しお茶を普及させたが、ペットボトルに要求されるのは質より量だ。大量生産・大量消費による時代の流れが文化としての産業を衰退させてしまった。
また遠州地区はバイク製造の聖地である一方、観光産業では後塵を拝した。これは自分の感覚だが、どうしても東日本と西日本の通過点というイメージが強い。「風と茶畑とバイク」は東京・調布市でバイク屋を営む斎藤輪業と遠州地区に縁がある同級生との共同プロジェクトとして生まれたイベントだ。お茶とバイク、この二つの産
業の関係性から変化と共存を模索し「観光誘致に貢献したい」これがこのイベントのテーマなのだ。
今回のイベントとは無関係だが掛川市にお勧めの書店がある。店名は「本と、珈琲と、ときどきバイク。」。元ヤマハのデザイナーがオーナー。珍しい経歴の書店だ。日本のバイク文化を幅広く丁寧に伝えるために、バイクと本をクロスオーバーさせた新しい試みだ。店主の選書基準は好奇心、感受性、美意識。美味しい珈琲を飲みながら、ページをめくってほしい。
新茶の芳醇さに、日本で生まれたことを感謝する。
東海道は日本の要衝バイクもお茶も進化する
「箱根八里は馬でも越すが越すに越されぬ大井川」これは東海道屈指の難所の大井川を歌った詩の一節。遠州地区には現在も東海道跡が残っている。
昔から東海道は交通の要衝だった。東海道五十三次の23番目の島田宿は渡り船を待つ旅人で賑わった。旅人は富士山を眺めながらお茶を飲み、きっと至福の時間を過ごしたに違いない。今年は第一時世界大戦で、敗戦を機に航空機メーカーだった BMWがバイクの製造を始めて からちょうど100年目を迎える。今回のイベントで参加したバイクは約 台なのだが、その中でBMWはなんと40台も参加していた。筆者のバイクは1950年製のR50/2だが、同じ年代の旧タイプもおり、一方で最R18やG310Rといった最新モデルも参加していた。お茶業界も時代のニーズに合わせ変化しているようで、最近は日本茶に合わせてアレンジした洋風のスイーツが欧米で注目を集めているという。普段はあまり日本茶を飲まない筆者だが、東海道を眺めながらいただく日本茶は格別だった。