Text:Takeshi Yamashita/BMWBIKES
Photo:Koichi Otani/Satoshi Mayumi/Takeshi Yamashita
BMWBIKES vol.105 掲載記事
憧れのマン・ケイブを
シェルターに昇格させた
地下に位置する自動シャッターが静かにスルスルと上がると、そこには異空間が広がっていた。内部はおそらく車が4〜5台は停められそうな広いスペースだ。白塗りの壁に、タイル敷きの床、天井から透明感のある光が室内を照らし出すその空間は、まるで、どこかの海外のフィットネスジムのような趣だ。
ここは本誌の発行人である並河勝典の自宅ガレージである。以前から並河のガレージがハイエンドなことは承知していたが、手前味噌になるため、取り上げるのを避けて来た。しかしBMWという高級外車を愛するものとして、将来的にガレージライフを夢見るのであれば、こういったアッパークラスの紹介も必要だろうということで、今回登場を願ったわけだ。
ガレージの中央には車が回転するターンテーブルがあり、普段はそこに愛車のI8が止まっている。今回はそのI8を出してもらい、数あるコレクションの中から5台の愛車を並べてもらった。その筆頭は発売されたばかりのR1300GSツーリングパッケージだ。並河は2015年ぐらいまであまりGSに乗っていなかったが、ドイツのエンデューロパークでの体験をきっかけにすっかりオフとGSにはまり、以来、常に最新のGSに買い替えている。
次に目が行くのが、BMWが初めて市販化した電動モデルのCエヴォリューションだ。壁には充電ジャックが設置され、常に走れる状態でスタンバっている。その奥に目をやると、2017年に750台の限定で製造されたHP4レースが鎮座。カーボンでフル武装した幻のスーパーバイクだけにやはりオーラが違う。ごくたまにレーシングスーツに身を包み、サーキットを走らせるという。そして普段使いのR nineTピュアとK1600GTLエクスクルーシブと多彩なBMWが並ぶ。
ここまでで充分にインパクトのあるガレージだが、驚くのはまだ早い。ガレージの奥には電動の昇降機があり、バイクを載せて上がると、そこは陽光の降り注ぐメンテナンスルームになっているのだ。
そこには作業台を中心に整備工具と簡単な工作ができるような卓上旋盤やコンプレッサーが並び、パーツの清掃や細工ができそうだ。完全電動のトライアルバイクや、電動キックスケーター、ラジコン、ドローン、天体望遠鏡なども並び、並河がいかに乗り物や遊び道具が好きかが伝わってくる。
「私は元々機械系もやってたからね、穴を空けたり、削ったり、ちょっとした物ならここで作っちゃうんだよ」
並河は本誌の出版事業以外にも、BMCJ(BMWモトラッドクラブジャパン)の会長としても活動するが、普段の顔は日栄化工という接着剤などを製造する会社の取締役である。大阪の製造会社という職人的見解のある中で、BMWというやはりドイツの職人気質の車とモーターサイクルに惚れ込み、BMWを通したあらゆる活動を続けている。
「このガレージは、今から5年ほど前に作ったんだよね。そもそもここは半地下で、すべて埋まっていたスペースだったんだ。そこを掘りこんでガレージにしたわけ。アメリカではよく地下に男の隠れ家(マン・ケイブ)を作るでしょ? 私もそれをやってみたくてね。忙しい毎日だけど、ここでバイクや車を見ながらゆったり過ごす時間は本当幸せだよね」
「作っているうちに、ああしよう、こうしようというアイディアが次から次へと出てきて、奥にリフトを作って、上の作業場へ通じたら面白いな、と思ってそれも作ってしまった。そうやって自分の夢を現実化してそこで大好きなBMWに囲まれ、時にいじったり、磨いたりして過ごすのは、本当に楽しいことだね」
「実はこの空間は、構造や壁の素材にもこだわったので、いざというときは地下の核シェルター的な使い方もできるんだよね。水とか食料とか発電機もあるから、災害で停電が起きても1週間ぐらいは快適に過ごせるんだ」
なんと、ガレージがそのまま地震などに耐えうるシェルターになるとは、まさに奇想天外なアイディア。日本でもあまり見ない例なのでは。恐れ入りました。