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第57回 BMWオーナー探訪/ハロービーマーズ Hello,Beemers

その走りにプロライダーが驚愕した 遅咲きのレディレーシングライダー

バイクに乗りはじめたのは42歳のときながら、瞬く間にレーシングライダーとなった磯部美里さん。子供の頃から運動神経が良く活発で、そのぶん怪我も絶えなかったというオテンバレディのバイクライフとは——

Text&Photo / Takeshi Yamashita

BMWBIKES vol.106 掲載記事

磯部 美里 さん

長野県出身。52歳。経営コンサルタント、生損保険総合保険代理店を営む傍らでバイクレースをはじめ、数々の新記録を樹立。現在は女性ライダーとプロライダーをマッチングするサービスも開始した。

磯部さんのレーシングスーツにはあちこちに転倒傷がある。ここ2年ほどでクラッシュに巻き込まれてヒザの陥没骨折や肩鎖間脱臼などの重傷を負ったが、それでもバイクやレースに対して恐怖感はないそうだ。今年はまだサーキットを走れておらず、今はリハビリに励みレース復帰を目指している。
ホームサーキットはもてぎで、もてぎロードレース選手権で数多くの勝利を獲得。’22年はシリーズチャンピオンを獲得するまでに成長した。
『TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW』は、全日本ロードレース、鈴鹿8耐や世界耐久戦に参戦するレーシングチームで、高性能工具メーカーがサポートしている。磯部さんのレース活動がチームの目にとまり、マシン製作やライディングのコーチを受けてめきめきとスキルアップしている。

少女時代は『超人』と呼ばれるほど、幼少時から運動神経が良く、鉄棒の大車輪を誰に教わることなく自然にできるほどだったそうだ。磯部さんの身体能力と動体視力の良さはプロライダーも認めていて、彼ら曰く「コピー能力が高い」そうだが、坂田和人さんには「下手くそ!」と連呼されるほど厳しいレクチャーを受けてきたという。

多くの人との出会いが磯部さんのステップアップを助けた。磯部さんの右がリーさん、左が井出さん。モトラッド高崎ではメカニックの瀧澤隆さんがレースでもサポート。

『3310』という数字は、磯部さんの名、美里を当てたものだ。

「もっともっと速く走りたい!」その一心で

ひたすらレースに打ち込んできた10年間

 磯部さんの愛車、S1000RRは、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦中の『TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW』がチューニングしたレーサーだ。磯部さんはアマチュアライダーなのになぜ……?

本誌●バイクに乗るきっかけは?

磯部●体調不良になって実家の長野へ帰ったとき、今はチーム監督をしてくれている井出幹雄さんに出会って、「スピード出すのが好き」と話したらバイクの後ろに乗せてくれることになったんです。井出さんは今までにそういう人と会うと、後ろに乗せて泣かせてきたそうなんですが(笑)、私はひたすら楽しくて、ずっとキャッキャッとはしゃいでました。その後、井出さんがグロムを貸してくれて、駐車場で運転したら半クラができず、スタートすらできなくて、悔しくて翌日に教習所へ行って1カ月半で大型免許まで取ったんです。

本誌●初めてのバイクは?

磯部●本当はS1000RRに乗りたかったんですが、井出さんがまずはグロムで練習しろ、と。その後、F800S、S1000Rを経て、ようやくS1000RRに乗れました。その頃知り合った小林ゆきさんから「レース1回は練習100回分」とアドバイスされて、翌年のもて耐の4時間にCBR250Rで出るようになったんです。でも、転倒が多かったので、もてぎのレーシングスクールに「皆勤賞か!」ってくらい通いました。そして五百部徳雄さん、坂田和人さん、川島賢三郎さん、青木宣篤さん、関口太郎さんたちと知り合えて、レクチャーや個人レッスンをお願いしたりして走りまくりました。

本誌●錚々たる面子ですね!

磯部●昔のレースのこととか知らないので、大御所の方々にも遠慮なく近づけちゃうんです(笑)。G310トロフィーに出たとき、よそ見しててスタートで失敗して最後尾になったことがあって、でも1周目で17番手まで上がり、G310のコースレコードも出せたんです。それを日本のBMWモトラッド社長(当時)のリー・ニコルスさんが見ていて、「ぜひHP4レースに乗ってほしい」と言われまして……。

本誌●1000万円のバイクだから「はい」とも言えませんね。

磯部●ですよね(笑)。その後、ディーラー向けの試乗会で乗らせていただいたらS1000RRとの違いに感動してしまって、結局購入しました。

目標はJSB1000、そしてヨーロッパでの

ウーマンチャンピオンシップ参戦

本誌●それにしてもよく決断できましたね。TONE RTとはどうやって知り合ったんですか?

磯部●モトラッドデイズでHP4レースを展示したら、TONE RTの高村嘉寿さん(チーム代表兼メカ長)が驚いて、経緯を話したら「本気でレースをしたいなら、S1000RRを買うことを条件に全日本マシンと同じチューニングをするし、レースのことも教える」と言ってくださったんです。ライダーの星野知也さんや渥美心さん、関口さんに個人レッスンをお願いして、もてぎで(2分)7秒台、5秒台を出せるようになって、初めて1000㏄で走ったレースでは2秒台まで出せるようになったんです。

本誌●ものすごい成長ぶり!

磯部●21年からはプロダクションクラス(SP−1)に参戦して、22年には年間チャンピオンになれました。皆さんのおかげです。

井出●川島さんにはSP−1では練習にならないと言われ、ST1000にクラスアップしてダブルエントリーしてるんです。昨年の第3戦は13位で完走しまして、これは女性初のリザルトなんです。今では2分を切るタイムも出せていて、皆さんからは53秒台までいけると言われてます。

磯部●でもその後にクラッシュに巻き込まれてヒザや肩を怪我してしまったので、今年はまだサーキットを走れてないんです。

井出●ヨーロッパで開催されているFIM公認のウーマンチャンピオンシップに出ないかとのお誘いもあったのですが……。

磯部●参戦するつもりでスポンサー集めをはじめようとしていたのですが、肩の怪我がまだ治療中なので保留です。まずは、また1000㏄でレースを走ることを目標に、今は星野さんや関口さんと一緒にトライアルで練習しながらリハビリしてます。

レースで使っているサインボード。ピンク色はTONE RTが磯部さんのために選んだカラーだそうだ。


現在のマシンはS1000RR(K67)で、TONE RTがフルチューンしたレース仕様(公道不可)だ。

一筆御礼

 磯部さんは、タイムやリザルトという結果よりも、ひたすら「もっと速く、もっと上手く乗りたい」という気持ちでレースに挑んできた。インタビューではそんな純粋さが伝わってきた。新しいことに挑むのに年齢は関係ないことをあらためて思い出させてくれた。身体をしっかり治して、世界のレースへ挑む姿を見届けたい。

北関東のビーマーを手厚くサポートする老舗

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